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出産土器について

たまたま研究室にいた考古学の先生から、縄文土器について少し習ったのでまとめます。

勝坂式、加曾利E式、藤内式……色々な種類の土器について話したのですが、私が特に気に入っているのは藤内式の出産土器です。藤内式土器の一種である出産土器は、ポット型の土器の縁と土器の真ん中辺りに顔が付けられているのが特徴です。

 

藤内(とうない)式は、縄文時代中期に発達した厚手かつ豪奢な作りが特徴的な『勝坂式』という土器の種類に分類される土器です。

出産土器というのは通称で、本来は人面手付き深鉢、または、産児文顔面把手付土器と呼ばれます。出産土器は藤内式のみではなく、井戸尻式など他の種類の土器にも似たようなものがあります。

 

 では、なぜこの土器が出産土器と呼ばれるようになったのでしょうか。

 

 

 

 

写真から分かる通り、この土器には土器の表面部分に2ヶ所、そして取っ手部分に1ヶ所の計3ヶ所に顔面がついています。

土器の表面部分の顔に注目して見ると、顔の下あたりから足?を表すような渦巻き模様が描かれており、そして取っ手部分の顔の裏面には渦巻きが飛び出したような形の模様が付けられていることが分かります。これは、出産の苦しみを表現し、表面の2つの顔は胎児を、取っ手の顔は母親を、またその裏側の渦巻き模様は母親の苦悶の表情だと考えられています。縄文人は、このように出産のワンシーンを土器で表現することにより安産を願ったのではないでしょうか。 

 

人面把手付き深鉢にはもう一つ、豊穣への願いが込められていると考えられています。

縄文時代中期は植物栽培が盛んになり始めた時期でもあります。縄文人は食物など、生きていくのに必要な物を育んでくれる大地を、子供を産み、育てる母親と同一視したのかもしれません。

 

 

様々で複雑な模様のついた縄文土器を作りだすことによって、縄文人たちが土器に特別な思いをこめていたことは明らかです。彼らは何を思っていたのか……それを想像するだけでわくわくしてきます。