びてきかんしょう()

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竹下夢二展に行ったはなし。

先日、日本橋高島屋で開催されていた「竹久夢二展 ~ベル・エポックを生きた夢二とロートレック~」に行ってきました。台風18号の影響で酷い大雨でしたが、展示最終日だったせいか意外に人が多く、映像展示では座る場所がないほどでした。

 

この展示では、19世紀末から20世紀初頭の「ベル・エポック(よき時代)」と呼ばれる時代を生きた、竹久夢二ロートレックに焦点を当てていました。彼の描いたポスターはもちろん、愛らしく、「いろ」のある、西洋への憧れが詰まった大正ロマン時代の女性像はみる者を恍惚とさせるほどでした。かくいう私も、夢二の描くその艶やかかつ清廉な女性美に心惹かれてしまいました。今回の展示の主役である竹久夢二は、大正時代に活躍した詩人画家です。美人画を好んで描き、のちに「夢二式美人」と呼ばれる抒情的な作品を多く残しています。また、同時代に活躍した、アール・ヌーヴォーを代表する画家、ロートレックミュシャに影響を受け、日本における版画やポスターなどのデザインを、芸術として認められるジャンルにまで引きあげた、大正ロマンを代表するデザイン家でもあります。

 

ファム・ファタール」日本語で宿命の女や運命の人といった意味を持つこの言葉は、一度出会ってしまったら二度と逃れられなくなり、破滅に陥ってしまう魔性の女性や、自分の運命を変えられてしまうような相手のことを指します。夢二の生きた19世紀から20世紀は、世界的にもこの「ファム・ファタール」というイメージが好んで描かれた時代でした。

ファム・ファタール」を描く際、クレオパトラ7世や女神リリスなど、歴史や物語に登場する「魔性の女」をモチーフにした画家は沢山います。しかし、夢二にとっての「ファム・ファタール」は、実在する3人の女性でした。戸籍上唯一の妻であったたまき、夢二のファンであった彦乃、モデルのお葉だ。違うタイプの女性それぞれから、夢二は大きな影響を受け、また、私生活では振り回し振り回されながら、彼女たちと運命を共にしました。特に彼が一番愛していたといわれている彦乃の結核による死は、夢二に大きな影を残したといいわれています。

 

夢二は、3人各々とのこのような深い付き合いを通して自分の才能を深化させていったようです。しかし、調べてみるとこの3人の女性、彼によって結構痛い目にあわされているように見えるにもか関わらず、夢二ととても「献身的」に尽くしていたようです。

特に最初の妻たまきには、夢二と別れる際、右手を刺され、痛い目に遭わされた後もずっと彼を慕い続けた、という逸話があります。そういった意味では、3人の女性が夢二の宿命の女なのではなく、夢二が彼女らにとっての「ファム・ファタール」だったのかもしれないですね。フランス語で「ファム」は女性を表すので、この場合は「宿命の男」といった方が正しいかもしれませんが……。

 

彼女らの存在を意識して展示作品を見てみると、夢二の美人画作品が初期、中期、後期で驚くほど変化していることに気がつきます。たおやかで目のぱっちりとした姿のたまき、可愛らしく可憐な花のように描かれた彦乃、そして艶やかですらっとした姿のお葉。彼女達は、各作品に雰囲気や着物を変え、彼の作品に幾度となく登場します。

また、彼は西洋芸術にも強い関心を持ち、ロートレックをはじめとする当時の画家たちの作品の切抜きを何冊もの分厚いスクラップブックに綴じ、ポスターやデザインの参考にしたといわれています。そうして生み出された夢二の画風は、人々に「日本のロートレック」言わしめるほどでした。

 

芸術学校に通うことなく、独学で、型にはまらない作風を生み出た夢二の作品は、当時の人々にとって自由で新しいものに見えたのでしょうか。

芸術だけではなく、様々な分野で西洋と日本が交錯した大正時代。動乱の中、運命の人と画家人生を駆け抜けた夢二の描いた美人画の美しさと「いろ」は今でも失われずに人々を魅了しているようです。

お金があれば行けた。贋作展【TO DECEIVE: FAKES AND FORGERIES IN THE ART WORLD】

この前、贋作の中にあるオリジ ナリティは評価されても良いのではないかという記事を書いたのですが、贋作に焦点を当てた企画展示が世界を巡回していたそうです。

 

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http://www.intenttodeceive.org/

【TO DECEIVE: FAKES AND FORGERIES IN THE ART WORLD】

 

 

この、【TO DECEIVE: FAKES AND FORGERIES IN THE ART WORLD】という展示は、マサチューセッツにあるMICHELE & DONALD D'AMOUR MUSEUM OF FINE ARTSINTENT を皮切りに、計4つの美術館を約1年かけて巡っていたそうです。行きたかった……!!!!!

展示される作品の作者は、メ―ヘレンだけではなく、ルノワールモディリアーニを手掛けたハンガリー出身のエルミア・デ・ホーリー(Elmyr de Hory)やシャガールマティスなどを手掛けたイギリス出身のジョン・マイアット(John Myatt)、エリック・ヘボン(Eric Hebborn)、アメリカ出身のマーク・ランディ(Mark Randis)など、世界屈指の贋作家ばかりです。上に紹介したWebサイトでは、作者のプロフィールがかなり詳しく載っているので、興味のある方は是非覗いてみてください。

 

私が特に気になった作者は、統合失調症を患いながら作品を手掛けていたマーク・ランディでした。彼は、メーヘレンヘボンのように、売却したり専門家を騙すために贋作を手掛けたのではなく、美術館や大学用の複製品の作り手としてその才能を発揮していたようです。商業用に贋作を手掛けていた他の4人の作者と彼を同じように扱って良いのか少し疑問に思いますが、どんな利用のされ方をしていたにしろ、有名な画家の複製品を作ったということでは同じなのかもしれないですね。

 

この展示はもう終了してしまったようですが、日本には、滝川太郎という西洋画を主として描いた有名な贋作家もいるので、いつか彼と馳せて日本でも贋作展を開催してみても面白いかもしれません。

私もせっかく学芸員資格を取得したので、今度企画をしてみようかな……

ヨハネス・フェルメール 恋文

 

この前紹介したハン・ファン・メ―ヘレンの被害者についてです。

 

Johannes Vermeer Liebesbrief (1669-1671)

 

今回は、ヨハネス・フェルメールの『恋文』を紹介しようと思います。

シターンを引く夫人の後ろからそっと手紙を差し出す召使いと、夫人のはっとしたような 表情との対比で有名なのが、この作品です。

召使いの夫人を安堵させようとするかのような笑顔から、その手紙は恋文であり、喜ばしい内容であることが伺えます。また、召使いの後ろに飾られている海と帆船の絵は、恋愛事情を寓意的に表しており、絵にあまり寓意性を織り込まないといわれているフェルメールにしては珍しい様式だといわれています。

これはフェルメールが自らの絵に変化を取り入れていたころの作品でもあり、モップやサンダルなど数々寓意表現や、表情に意味性を持たせないためか、召使のやや単調な顔立ちからも読み取ることが出来ます。

 

私がこの作品を見て気になったのは、何といってもこの不思議な構図です。

手前に描かれているドアや部屋の入口を見ると分かるように、この部屋の入口はとても狭く、そして細長くなっています。これは実際ではありえないことなので(わざと作れば別ですが)フェルメールが、鑑賞者の 視線を部屋の奥の2人にくぎ付けにするため、わざとこのような不自然な入口にしたと考えられます。

 

この作品のような恋と手紙という取り合わせは、絵画の世界でよく取り上げられている題材です。やはり昔の人もまず、気になった人がいればその人と手紙のやり取りから始めたのでしょうか。

現代においては、好きな人のメールアドレスやLINEを本人または友人と交換し、チャットのやり取りをし、親しくなっていくというような段階を踏むのが一般的なようですが、その手順は媒体と速度が違うだけで昔も今も変わらなそうですね。

 

この女主人も、気になるあの人から手紙の返事が来ない、まだ来ない、と待ちわびていたのでしょうか。