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J.M.W ターナー アップナー城ケント

J.M.W ターナーについて書いていきたいと思います。

 

彼は18世紀末から19世紀にかけてのロマン派水彩画家です。展示会の多さからか、日本人の好みに合っているのかは分かりませんが、日本でもかなり有名ですよね。アクリルガッシュの名前にもなっています。

 

 

Upnor Castle, Kent, 1831-32

 

 

 

この作品、『アップナー城、ケント』は1831~2年、ターナーが50歳半ばの時に描かれました。

18世紀半ば、英国ではピクチャレスクという”絵になる美しい風景を愛でる”といった美的、そして文化的観念が生まれました。このピクチャレスクという概念に基づいて、当時の水彩画家は作品を描いていたと言われています。

絵になる風景の条件としては、起伏に富むなど”不揃い”な山岳地帯や、教会や修道院のような他とは変わった作りの建物、廃墟が好まれました。旅好きであったターナーは旅先での様々な風景を描いたと言われています。特に18世紀盛んになったグランドツアーという、上流階級の人たちが教養を深めるための国外旅行の影響もあってか、ターナーの作品にもイタリアやフランスの風景を描いたものが多く存在します。

 

さて、本題に入りましょう。

この作品の特徴は何といっても水面に浮かぶ船と船の間から差し込む光ではないでしょうか。上下に伸びる日の光の存在感、雲を通す光の描かれ方は圧倒的です、感動ものです。

また、中学校程度の技術的教育しか受けていない私が言うのもアレですが、”光”を描き表わすのはとても難しいと思うのです。特に空の高さによる光の加減や、雲間からこぼれる光、水面からの光の反射を”正確に”描くのは相当の技術が必要になるのではないでしょうか。

 

キャンパスを縦横無尽に走るこの光はどうやら夕日らしく、差し込む光に人々がや船が照らされています。光線を描くことに重きをおいた作品であるのに、人々の表情や船の細部などの描きこみもとても精密なので、まるで自分がこの絵の世界に入り込んでしまったような感覚にさえなります。作品右側の船の近くにある銃は、アップナー城が以前、武器庫として使われていたことに由来すると言われています。

 

彼が光を正確に描いていたのか、この風景は実在したのかということは定かではありません。しかし「画になる風景」を見つけ、それを確かな技量で描き出すことのできたターナーは、ある意味、現代のフォトグラファーのような役割をしていたのかもしれません。