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ハン・ファン・メーヘレン エマオの食事

『エマオの食事』または『エマオのキリスト』という作品は、贋作として有名な作品です。

 

 

この作品は20世紀最高の贋作者ハン・ファン・メーヘレンによって描かれました。

彼は元々オランダの画家でしたが、時の美術界にその実力を認められず、その復讐として贋作者への道を選んだと言われています。17世紀の絵画に造詣が深く、研究熱心だった彼は、作品をただ模写するのではなく自分が描いている作品の作者のタッチをまね、作者になりきって描いていました。

彼が贋作を制作するときは、必要な絵筆や溶剤などを全て自ら手作りし、その材料も作品が描かれた当時と同じものを使うという徹底ぶりでした。更に彼は自らの作品を年代物に見せるために、わざとしわをつけたり、墨を塗って黒ずませるといった手法も使ったと言われています。

 

『エマオの食事』というこの絵は、メーヘレンがフェルメールのタッチをまねて、1936年に描いた彼のオリジナル作品です。

当時そこまでフェルメールの研究が進んでいなかったということもあってか、メーヘレンはフェルメールを描くことを特に好み、フェルメールとしての”新作”を他にも何点かのこしています。その中の1つがこの『エマオの食事』です。彼はこの絵を、”フェルメールの未発見絵画”として資産家たちに売り込み、最後には高額でオランダの国立美術館に買い取られました。

X 線や化学反応調査もくぐり抜け、当時の研究者たちにフェルメールの本物と断定させたこの作品は、正真正銘の傑作と言えるでしょう。

 

メーヘレンは贋作者として歴史的に悪人扱いをされることが多いのですが、彼の天才的技術や絵に対する情熱は他の芸術家たちにも引けを取りません。もちろん誰かの作品を盗作し転売するということはアーティストたちに対する冒涜ですし犯罪でもあります。

しかし、『エマオの食事』などメーヘレンによって生み出された作品たちは、いわば彼のオリジナル作品です。彼は裁判で自分のことをフェルメールの後継者と名乗り、また自分はただ絵を描きたかっただけだとも言っています。(これは彼が捕まった時の言葉なので、言い訳とも取れるかもしれませんが……)

メーヘレンが1947年に亡くなってからまだ歴史的に日が浅いため、彼の評価は研究者によって賛否が分かれています。非常に精巧な彼の作品は、未だ真偽のほどが分かっていないという作品もあるようです。

 

彼の作品を贋作としてではなくオリジナルとして考えると、彼の評価も変わってくるのではないでしょうか。もちろん贋作制作自体は、いわば人の”商品”を金儲けのためにパクったということなので褒められたものではありません。しかし、彼の発見した贋作技術は、最新技術をも騙す天才的なものですし、彼の作品ひとつひとつに対する情熱は、他の画家かそれ以上に強いもののようにも思えてきます。

 

「贋作?ただのパクリでしょ」と決めつける前に、メーヘレンの最高傑作、『エマオの食事』を1つの作品として見る風潮が強くなれば、今までとは違ったメーヘレンの姿が再発見されるはずです。